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2009年08月05日

2.現実(1)


「新田(にいだ)室長。」
 若いワイシャツ姿の男が、ドアをノックして入ってくるなり声をかけた。
「ああ。そこ置いといてくれ。」
 入ってきた男に視線も向けず、机の横を向いて書類を読み続けていた男がのんびりと答えた。
「執務室に3日連続で居られるなんて、珍しいですね。」
 若い男が構わずに言った。
「報告会議も、決済も、一通り終わったからなぁ・・・。」と、いかにも面倒くさそうに新田が答えた。姿勢は全く変えようとせずに。
 そして、
「ありがとう。」と、若い男との会話を打ち切ってしまった。
 次の一言を差し挟むこともできず、若い男は深々と頭を下げて部屋を出て行った。


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posted by 北乃 道晴 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 2.現実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2.現実(2)


「珍しいですよね、室長がずうっと居るなんて。」
 追い出されるように部屋を出てきた若い男が、自分の席の隣に座ってパソコンを睨みつけていた初老の男に話しかけた。
「動くんじゃねーの?」
 初老の男がぶっきらぼうに答えた。
「また昇格ですか?めちゃくちゃ早いじゃないですか!」
 若い男は羨ましそうに、いま出てきたばかりのドアを見つめて言った。
「まだ30代入ったばかりで経済産業省政策企画室の室長ですよ。それが2年経たずに昇格・・・。え、次は局長!?ウソでしょ。」
「お前さんだって、その若さで企画室配属なんて出世頭だろ。」
 うるさそうに初老の男が言った。
「俺なんか・・・とんでもないですよ。」
 そう自己否定したものの、初老の男から期待通りの答えを聞くことができて、若い男は笑みが溢れそうになるのを必死で抑えた。


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2009年08月06日

2.現実(3)


「次は誰があそこに座るんでしょうねぇ?」若い男がぽつりと言った。
「誰が来ようと、こっちにゃカンケーねーよ。」
 初老の男は、吐き捨てるように言ってそれきり黙ってしまった。
 新田の仕事は省内でも有名だった。
 成果の大きさも確かに有名だが、一方で黒い噂が付いて回ることでも有名だった。
 新田はトップダウンの政策立案だけでなく、ボトムアップによる政策立案においても数多く、国会審議を短期間で通過させて政策実施に結び付けてきた。
 その辣腕ぶりは噂には上るものの、実際には一部の人間しか実態を知らない。しかもそれらの人間が新田とのやりとりを口外することは、論理的に考えてもあり得なかった。
 なぜなら、新田が政策実施を取り付ける上で抑えていたのは、大臣であり、事務次官であったからだ。大臣政務官や、大臣官房、ましてや局長クラスなどは新田の視界には入っていなかった。もちろん、必要となる印鑑は必ず捺印されている。が、それは大臣、事務次官からのトップダウンで承認せざるを得なくなっていたというのが実態だろう。
 決して新田は国政を改善することを目的として全力を尽くしていたわけではなかった。
 

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posted by 北乃 道晴 at 08:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 2.現実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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