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2009年08月22日

13.進路(1)


「ねえ、そろそろ幼稚園探しを始めようと思うんだけど。」新田の妻、みくが夕食を食べながら言い出した。
「そうだなぁ。あおいも幼稚園でたくさんのお友達と遊びたいよな?」新田は、娘のあおいを膝に乗せて食事をしていた。
「東京と違って遊び場が一杯あるから、ご近所でもお友達はずいぶん増えたけどね。来年から幼稚園へ行くお友達が大勢いるから。どうせなら一緒に・・・と思って。」みくが笑った。
「少しは慣れた?東京とずいぶん違うんじゃないか?」新田がみくを気遣った。
 東京生まれ、東京育ちのみく。親戚縁者もほとんどが東京在住。今では、容易に顔を見に行くことも出来ない生活に、新田は不憫な思いをさせているんじゃないかと思った。
「違うわねぇ。こんなに住み良い所だとは思わなかった。」意外な返事をみくが口にした。
「同じ日本だとは思えないわ。あなた、良い所で育ったのね。」みくが羨ましそうに新田を見つめた。
「昔はもっと田舎だったんだけどな。最近はずいぶんと垢抜けた感じもするなぁ。」と新田が笑った。
「若い頃に仕事があったら、東京に出た?」みくが聞いた。
「大学が東京だったからなぁ。それに、柿さんにでかい事やってみろって言われて思いついた仕事って、役人くらいだったから。」若気のいたりとは言え、あらためて恥ずかしそうに新田が笑った。
「やっぱりあの仕事、好きでやってたわけじゃなかったのね・・・。」みくがぽつりと言った。


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posted by 北乃 道晴 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 13.進路 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

13.進路(2)


「好き嫌いを気にしたことが無かったからな。仕事って、そんなもんだと思ってるし。」
「好きなことって何なの?」あらたまって、みくが聞いた。
「・・・。何だろうなぁ・・・?」唐突な質問に新田が窮した。
「今の仕事、このまま続けるつもり?」みくが続けた。
「やはり不満、感じるかい?」みくの真意がつかめないまま、新田が答えた。
「不満なのか判らない・・・。確かに収入は大きく減少したけど、あなたがあおいと毎日顔を合わせてくれるようになったのは嬉しいわ。」
 やはり所得とステータスは、望ましい大きな存在だったんだな・・・と新田は感じた。
「どうしてあなた、結婚した頃のように大笑いしなくなったのかしら?」みくが新田の顔を覗き込んだ。あおいが、近づいてきた母親の顔を嬉しそうに見つめている。
「笑ってない・・・?おれ?」意外な質問だった。
「札幌に戻れば少しは変わるかと思ったけど・・・。何か、まだ自分を抑えておく必要があるの?」子供のように、真っ直ぐな質問をみくが新田にぶつけてきた。
 新田は全く気付いていなかった。


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posted by 北乃 道晴 at 17:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 13.進路 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

13.進路(3)


 みくが一番不満に思っていたのは、新田が常に前を向いて、時には野心を語り、時には腹から笑っていた、結婚前の活き活きとした姿がいつの間にか消え失せてしまったことだった。
「あなたの本当の価値って、私やあおいに夢を見せてくれることよ。結果はどうあれ、夢に向かって生甲斐を感じて毎日を一緒に過ごせなきゃ、夫婦や家族でいる意味が無いと思うわ。収入が苦しいなら私だって働けるってこと、忘れてないでしょうね?」みくが腹の奥に溜め込んでいたものを少しだけ吐き出した。
「あなた、私達に世間体の良い暮らしをさせたいとか思ってないでしょうね?」
「いや・・・。」新田は、ほんの少し前に頭の中をよぎった憶測がずばりと言い当てられて、それ以上返事をすることが出来なくなった。
「あなたがしたいことって何なの?」みくがもう一度聞いた。
 そしてこれ以上は何も新田の口から出てこないことを悟ると、みくはあおいの幼稚園を何処にするかと言う話題に戻して、週末に家族三人で見学会に行くことを決めてから夕食の後片付けを始めた。


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posted by 北乃 道晴 at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 13.進路 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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