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2009年08月26日

15.暗中模索(4)


「そういうことです、柿崎社長。」嬉しそうに柿崎に向かって、田村が話しかけた。
 その瞬間、新田は自分のうかつさに気付いた。そして柿崎が次に口に出すセリフもすぐに予測がついた。
「じゃ、田村さんと一緒にイギリスへ行って来てくれよ。」
 やはりな・・・。業務命令だ。柿崎相手に、ここのところ気を抜きすぎていたツケが回ってきたと後悔しながら、新田は返事を言葉に出さずに、ただ頷いた。
「で、出国前にしておきたい事があるって言ってましたね。田村さん。」柿崎が、笑顔で話を続けた。
「新田さんに、少しドライビングの基礎とモータースポーツ界の基本的なインフォメーションを身に着けておいて貰いたいんです。急なんですが、今から数日十勝へ同行してもらえませんか?」田村が、断られるはずも無いと理解しながら尋ねた。
「そうですね、わかりました。じゃ、龍。急いで準備してくれ。よろしくな。」
 長谷、ジン、モトハルが声に出すのを堪えながら、笑っていた。


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posted by 北乃 道晴 at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 15.暗中模索 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

15.暗中模索(5)


 翌週の日曜、新田は田村に同行して成田を発った。
「取引先さんの依頼で、1ヶ月イギリスへ出張だってさ・・・。長い留守で迷惑かけるけど・・・。」十勝から戻った一昨日の夕方、新田は帰宅するとすぐに着替えをしながら妻のみくに説明した。もちろんレーシングドライバーになるためにイギリスへ行くなどと説明する気は毛頭無かった。
「すごいのね、柿崎さんたちの会社。札幌近郊くらいまでの仕事ばかりしている会社だと思ってたから。」みくは思っても居なかった海外出張の話に驚いていた。東京に居た頃は、新田は国内出張はもとより、海外出張も日常茶飯事だった。が、ジャパン・ビークルで勤務を始めた新田の様子を見て、これからはのんびりとした毎日を送ることになると思っていた。
「オレが入社したからだろ。」決して新田が好まない、過去の経産省キャリアとしての経歴を、その本人が珍しく引き合いに出して答えた。
 だが、「そうかしら?柿崎さんたちが、そんなことを理由に仕事をするとは思えないわ。」と、その点は見通していたみくが答えた。
 みくも柿崎をはじめとするジャパン・ビークルのメンバーの人となりは既に充分把握していた。
「まあ、ビジネスチャンスのひとつってことなんだけどさ・・・。」新田は、それ以上詮索されたくなさそうに話を打ち切った。そして、「さき、風呂入っちゃうよ。」と、一人娘のあおいを抱きかかえてバスルームへと歩いて行った。
 十勝では徹底的にシフト、ブレーキ、アクセル、ステアリングの4つの操作を叩き込まれた。
 シフトレバーのソフトかつクイックな操作。
 最高速でコーナーリングしながらの制動(ブレーキング)技術。
 1cm単位のアクセル操作技術。
 仕上げに、加減速とステアリング操作が引き起こす車両バランスの違いの習得。
 また、マシンに乗っている時間と、トイレ、風呂、睡眠の時間を除き、田村やその他のスタッフらから、思いつくままにレースに関わる基本的な話を嫌というほど聞かされた。
 人件費、車両メンテナンス費、消耗部品費、燃料代、走行料、宿泊費、食費、全てを合算するととんでもない金額だと田村は笑っていたが、全てウィンガレージが準備してくれた。そして、新田は朝から夕方まで、とにかく走ることにだけ集中させられた。気が付くと、5日間の集中合宿となっていた。


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posted by 北乃 道晴 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 15.暗中模索 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

15.暗中模索(6)


「体中が痛いな・・・。」浴槽で娘のあおいに向かって、おどけた様なしかめっ面をしながら新田は呟いた。あおいは久しぶりに父親と一緒に居られて、とても嬉しそうにしていた。
 そしてその翌日、新千歳空港を発った新田は、成田空港で田村と合流して、同じ飛行機に隣り合せて座っていた。
 英国ヒースロー空港に着くとすぐにレンタカーを借りた二人は、1ヶ月限定で借り上げたシルバーストーンサーキット近郊のアパートへと向かった。
「まだ昼を少し回ったくらいだし、下見だけでもして来ましょう。」
 アパートに到着するとすぐ田村に誘われて、レンタカーから荷物をアパートの部屋に移しただけで、二人は再びレンタカーを走らせた。
 勝手知ったる様子で、田村はシルバーストーンの駐車場にレンタカーを停め、新田を従えてゲート、インフォメーションと、次々に通り抜けて、パドックへと歩みを進めた。
 新田の耳に、徐々に大きなエキゾーストノートが聞こえてきた。
「ああ、あそこに居るのがフォーミュラ担当のチーフ、エマーソン・ラリーです。」新田に簡単に説明しながら、田村は新田に指し示した男の元へとさらに歩いて行った。
「ハロー、エマーソン!」
「ハロー、タムーラ!着くのが早かったね。」細身で長身、ダークグレーでぴっしりと固めたヘアースタイルの男が答えた。アフロヘアの田村との比較が妙に笑いを誘ったが、新田が必死に堪えた。


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posted by 北乃 道晴 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 15.暗中模索 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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