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2009年08月28日

15.暗中模索(13)


 レーシングスクール終了の翌日から、新田と田村はイギリス国内のフォーミュラー・ルノーに参戦しているチームに連絡を取り続けていた。
 田村は日中はレーシングスクールで講師としての研修を続けているため、空き時間で問い合わせを続けていたが、新田は借り上げたアパートから電話を中心にメール、直接訪問と、自分をマシンに乗せてくれるチームが無いか探し続けていた。
 現在フォーミュラー・ルノーに参戦しているチームだけでなく、過去に参戦していたチーム、今後参戦する可能性が示唆されているチームなどを田村はリストアップしていた。
 だが、5日経過した中で直接会ってくれたチームは3つ、テストまで漕ぎ着けたチームは1つのみだった。それもそのチームがテストを行っているサーキットへ新田自身が直接乗り込んで行って、無理に頼んでテストしてもらった。
 もちろん、一度断られただけでは諦めず、毎日リスト上の全チームに連絡を入れ直した。
 だが結局、どのチームも新田に対しては興味を示すことは無かった。
「こっちも収穫無しでした。」田村もさすがに疲れた顔をしてスクールから戻って来た。
「私のほうもダメでした。」新田が夕食の準備をしながら田村に報告した。
「まあ、こんな短期間でほとんどアポ無しに近い形で、シートを獲得できるとは思っていなかったけど・・・テストが1回しか出来ていないって言う状況は・・・。ちょっと甘かったかな。」少し気弱に田村が呟いた。
「でも、1チームでも顔を売って来れたのは前進している証拠ですよ。それに、まだ英国国内しか連絡とって居ませんよ。」新田が笑って食事をテーブルに運んできた。
「その通りですね。新田さんより僕が焦っててどうするんだ・・・。」苦笑いしながら、田村が新田に頭を下げた。
「明日以降は、フランスや他の国にもコンタクトしてみますよ。名前くらい刷り込んで置いて損は無いでしょ。」今の状況を新田はさほど気にもせず、田村に気軽に答えた。
「これ、美味いですね。新田さん、料理もいけるんだ・・・。」田村が驚いて言った。
「そうですか?自宅ではやらないんですけどね。」新田が笑った。
そして冷やかすように、「ロンドンで和風居酒屋でも開きましょうか?そのほうが儲かるかも。」と新田が続けた。
「そうですねぇ。PRにもなるかな。うまく行けばスポンサーとして資金提供できる会社に育てられるかも。」田村も勝手な空想を口にして自ら笑った。


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15.暗中模索(14)


 結局、帰国2日前まで吉報はひとつも届かなかった。
「明後日の夕方の便でしたね。私はもうしばらくこちらで講師の研修を続ける予定ですから、もうひと粘りして見ます。」田村が申し訳なさそうに言った。
「いえ、少なくとも大きな実績二つは手に入りましたからね。大きく前進してますよ。」新田が答えた。
「スクールで最優秀選手として卒業できたことは、私自身も驚いています。それに、1チームだけとは言え、テストしてくれたチームが有ったってことは大きな収穫ですよ。まだまだ、時期を見直したり、条件を整えればチャンスは広がるはずですよ。」
 新田の前向きな言い回しに、田村は少しだけ救われた気がした。が、田村はあくまで新田をレースにエントリーさせて、どんな化け方をするかを早く見たかった。
「ひとつだけ・・・、新田さんに聞いておきたいことがあるんです。」田村があらたまって尋ねた。
「本気で走ってます?」
 まさかそんな質問をされると思っていなかった新田は、
「あの走り方が本気でないと言うんでしたら、どんな走りをすれば納得してくれるんです?」と、怒りすら感じずに即座に聞き返した。
「私たちウィンガレージでのオーディションの時もそうでした。何か物足りなく感じるんです。あれだけぶっちぎって走っている姿を見せ付けられているのに。」田村が本音を吐いた。


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posted by 北乃 道晴 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 15.暗中模索 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

15.暗中模索(15)


「私達のオーディションで不合格にしたのは、スポンサーさんの条件に合致しなかったから・・・という理由だけなんですよ。何度か交渉に行って許可を取り付けようと努力したんですが、新田さんの年齢、妻帯者であること等々、とにかく理由を付けられて一切却下された。でも、僕は何かもっと凄い物を新田さんの中に見たような気がしてならないんです。」
 新田は苦笑いしながら、「どう思って頂こうと勝手ですが、結果が全てです。卒業レースで勝ったとは言え、あの程度の差しか広げられなかったと言えばそれまでですからね。」
 それきり二人は黙り込んでしまった。
 そもそも自分のチームですら採用しなかったドライバーを、他のチームが採用してくれるなど有り得ないと考える方が自然だ。
 それは新田も田村も充分に理解していた。
 だが、田村はこれまでの人生の中で感じたことのない漠然とした、そして強烈な期待感を新田に感じていた。
 新田も、田村が一縷の可能性に賭けて1ヶ月も面倒を見てくれたこと、そして、新田自身も気付いていなかった潜在能力をシルバーストーンのレーシングスクールで『卒業レース優勝』という形として引き出してくれたことに、深い感謝の念を抱いていた。
「プロのレーシングドライバー・・・なんて人生は流石に本気で考える気はまだありませんけど、もしかしたら・・・という期待感を今回の渡英で感じ始めたは正直な気持ちですよ。」出張最終日、ヒースロー空港に見送りに来た田村に新田は挨拶をした。
「でも、冒険するには・・・もう遅すぎると思いますよ。やはりね。今月も、来月も、その先も、1月たりとも収入を絶つ生活は許されないんですよ。田村さんにもわかるでしょ?」
 そして、
「でも、今後の人生にきっと役に立ってくれる、貴重な体験をさせて貰ったと思っています。」そう言って深く頭を下げると、新田は田村に背を向けて帰国の途についた。


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posted by 北乃 道晴 at 17:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 15.暗中模索 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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