モータースポーツ 人気ブログランキングへ


<サイト内検索>



2009年08月28日

16.接点(1)


 数日後、1台の『Ritz RS TRD Racing』がジャパン・ガレージの駐車場に乗り入れてきた。
「田所さんじゃないですか。お久しぶりです。またどこか調子が悪くなりましたか?」最初に気付いた長谷が声をかけた。
「あの時は本当にお世話になりました。ずいぶん遅くなりましたが、ご挨拶に伺ったんです。」田所が長谷の顔を見て少しほっとしたように話した。
 事務所に通された田所は、ちょうどその時間にガレージに居て事務所に集まって来たジャパン・ガレージのメンバーたちに、
「あらためて、先日はお世話になりました。おかげで念願のシリーズチャンピオンを獲得することが出来ました。」とRitzカップ北海道シリーズの結果を伝えた。
「少しはお役に立てたようですね。いや、嬉しいですよ。しかもこうして報告に来て頂けるなんて感謝しています。」柿崎が田所に向かって頭を下げた。
「本来なら私ではなく、ドライバーを連れて来たかったんですが・・・。」
 田所が少し寂しそうな表情で、
「先日、ドライバーを担当していた友人が急逝しまして。実は前回のレースが最後になることは薄々感じてはいたんですが。」と言った。
「ご病気だったんですか?」長谷が尋ねた。


落天rakutenの砂時計 > トップページへ


posted by 北乃 道晴 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 16.接点 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

16.接点(2)


「ええ、肝臓癌だったんです。オイル漏れで大騒ぎしたあの時も、彼は病院に入院していて。翌日のレースのときだけこっそり抜け出して参加したんですよ。まあ、本人は死ぬ病気だとは知らされていなかったんですけど。」田所が答えた。
「奥さんが最後まで告知しなかったんです。めいっぱい好きなことをさせてやりたいと。さすがに本人も、優勝したあと再び倒れた時には感づいちゃいましたけどね。」
「そんな事情があったんですか・・・。」ジンが涙目で田所を見つめていた。
「惜しい方を亡くしたんですね、私達。」柿崎が答えた。
「ありがとうございます。皆さんの活躍を話したら、彼、本当に喜んでくれていました。本来なら体力的にも弱っていたはずなのに、僕らも驚くほど気合の入った走りを見せてくれました。」
 田所が帰った後、柿崎は缶コーヒーの自販機の前で長谷やジン、新田らとしんみりと話していた。
「あとどの位しか生きられない・・・って宣告されたら、今まで以上に、いや、今からでも生き方を変えて、何かに残りの人生を賭けれるものなのかな・・・?」柿崎が空を見上げながら呟いた。
「余命告知されていなかったそうですもんね・・・。36歳って言ってましたね。」ジンが驚いたように答えた。
「それより、仲間のために頑張ったんじゃないかって感じたよ。」長谷が感想を漏らした。
 少しだけ間を置いて、
「毎日、今日限りっていう覚悟で生きてるかな?俺たち。」柿崎が自分に言い聞かせるように話した。
 それぞれに思うところはあった。長谷も、ジンも、そして新田も他のメンバーも。
 だが、柿崎のこの一言には誰も答えようとはしなかった。
 ただ、田所の友人の冥福だけは、皆が祈らずには居られなかった。


落天rakutenの砂時計 > トップページへ


posted by 北乃 道晴 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 16.接点 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月29日

16.接点(3)


「おまえ、2年だって?」体格の良い少年が、小さくヒョロヒョロした少年に向かって脅すように声をかけた。
 数人の友人と一緒に居たその小さな少年は、大きな少年達が集まってきた様子に少し驚いていた。
「俺たちが練習していたレースセットで勝手に滑ってたらしいな。」体格の良い少年が、どういうつもりだと言わんばかりに詰め寄った。
 レースセット。手稲のスキー場のコース脇に、体格の良い少年達がアルペンスキーの練習のために勝手にポールを立てて作ったコースだった。スキーパトロールに見つかり難い様、陰になっていて、しかも大人でも手こずるような幅の狭い急斜面の林間スペースに作り上げたコースだ。
 体格の良い少年達がリフトに乗って登っている最中に、全身青のウェアを来た小さな少年が難コースを一発で滑り抜けて行くのを目撃した。
「少しは滑れるみたいだな。」体格の良い少年が、気弱そうに立ちすくんでいる青いウェアの小さな少年に向かって言った。
「し、知らなかったんです。」他の少年達が謝りはじめた。
「ね、龍君。そうだよね。」
「誰かが作ったコースだってことくらい、判るだろ!」別の大きな少年が怒鳴った。
「あんなコース、もう滑らねーよ。」龍と呼ばれた小さな少年が睨みつけるように言い返した。


落天rakutenの砂時計 > トップページへ


posted by 北乃 道晴 at 08:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 16.接点 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




楽天 ネックレス
エコバッグ
エルメス
ヘヴン ← H21日本文学館出版大賞ノベル部門特別賞
モータースポーツ 電動レーシングカート

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。