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2009年09月03日

19.身辺整理(4)


 そのとき見た田村の笑顔と声は、新田を不安の底から引き上げてくれるような安心感に満ち溢れていた。
 思わず新田のテンションも引き上げられ「充分綺麗なマシンじゃないですか!」と、田村に笑顔を返していた。
「これから大変ですよ、新田さん。今週から5週間連続で、このマシンで転戦します。今週はここ、富士スピードウェイのシリーズ戦。来週は鈴鹿、再来週は筑波の最終戦。そのあと富士の最終戦と、鈴鹿の最終戦にエントリーしますからね。」
 11月、12月に残されているレースはきっかり5戦。これら全てでしっかりと戦績を残さなければならない。
「もてぎの最終戦以降なら、FJ1600で3戦完走の実績になるからF4にもエントリーできるんですが・・・。残念ながら、今のところ乗せて貰えるチームもマシンも見つけられそうに無いんです。残されているFJ1600の5戦で結果を出すしかありませんよ。」深刻な状況を伝えながら、なおも田村は嬉しそうに説明してくれた。
「これ、見た目は綺麗にしましたけど5年落ちのマシンなんです。マシントラブルが起きないように専属スタッフを割り当てましたけど・・・。あとは新田さんに任せるしか有りません。」
「全てがギリギリ・・・ですね・・・。」新田も妙なテンションで苦笑いするしかなかった。
「ええ。でもやっと手に入れたチャンスです。一緒に、絶対勝ち取ってやりましょう!」
 田村から貰った心強い言葉だった。
『俺がまだ迷っててどうするんだ!』新田は腹の底に潜んでいる弱気な自分に、心の中で怒鳴りつけていた。


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posted by 北乃 道晴 at 08:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 19.身辺整理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

19.身辺整理(5)


 翌日の公式予選で、新田の不安は新田自身が払拭することになった。エントリー27名の中で、初レースに関わらず予選5位を獲得した。しかも、トップ5台は0.7秒の中にひしめき合っている。
「オレが・・・5位?」
「十勝でみっちり走り込んでおいて良かったですね!それに、BRAでのテストがいい練習になったと思いますよ。あのトレーニング方法、早速うちのスクールにも取り入れることにしましたからね。」田村の様子を見ていると、新田が予選5位に入ったことはそれほど驚くに値しないかのように見えた。
「凄いですよ。このマシンでまだあんなタイムが出せちゃうんですね・・・。」担当メカニックの方が逆に驚いていたくらいだった。
「来シーズン英国F3でトップを狙おうとしているドライバーに何言ってんだよ!」田村が呆れたように、メカニックを睨みつけた。
「トップ!?」メカニック以上に、新田自身が驚いた。
「そうですよ。じゃ無ければBRAが新田さんを合格させるわけ無いじゃないですか。」
 ここまで田村が信じ込んでくれているとは、新田自身も理解できていなかった。
 しかし、それも決勝レースで自ら明らかにさせることになった。
 10周目となるファイナルラップまで2〜4位争いがもつれ込んだ。新田はこの時点で4位につけていた。


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posted by 北乃 道晴 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 19.身辺整理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

19.身辺整理(6)


 1コーナの突っ込みで半ば強引に3位に躍り出た新田は、最終のテクニカル・セクションまで2位のマシンをつつき続けた。
 プレッシャー負けした2位のマシンはコーナーでアウト側に大きくスライドしてしまい、新田は難なく2位に浮上した。
 ゴールした後にパドックへ誘導された新田の元へ、「惜しかったー!」と叫びながら田村が駆け寄ってきた。
 まるで新田が優勝したとしても不思議が無いような口ぶりだった。
「さすがに初めてのレースだったから、前半は追い抜ける余裕が無かったみたいですね。」田村が笑ってフォローしてくれた。
 確かに田村が言うように、本格的なレーシングスピードでバトルをする難しさを、新田は今日のレースで初めて経験した。
 序盤の数周はスタートの緊張が尾を引き、予選順位を維持するのに精一杯だった。だがすぐに、周囲を走るマシンのスピードが新田には遅く感じられた。
「こっちはまだ行ける!」
 そう気付いた直後から、新田の走りに落ち着きが生まれた。手始めに目の前に居た4位のマシンの背後に張り付くと、一気に追い抜きを掛けた。
「これがバトルか!」新田はその時初めて、レースで競り合うことのエクスタシーを体感した。
 表彰台に上ったとき、広大な富士の裾野が新田の視界に飛び込んできた。ついさっきまで小さなコクピットに押し込められていたのとは全く異なり、全身が弾け飛んで行きそうな無限の開放感を覚えた。そしてその風景の先に、新しい世界が見えてきそうな思いに駆られた。
『絶対にBRAに戻るんだ!』
 不安しか感じられなかった毎日から、ようやく新田が開放された瞬間でもあった。


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posted by 北乃 道晴 at 17:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 19.身辺整理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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