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2009年09月03日

19.身辺整理(7)


 12月初旬の鈴鹿シリーズ最終戦を終え、新田はようやく札幌に戻ることが出来た。
「2位、2位、1位、1位、1位。今年、国内A級ライセンスを取ったばかりの中年ドライバーの戦績です。」田村が目の前に座っている柿崎に向かって報告した。
 田村の目は潤んでいるようにも見えた。
 実際のところ、田村は自分の直感を盲目的に信じて、ここまで新田を引っ張って来た。ここまで一人のドライバーに自分の時間や労力を注いだことは無かった。
 もちろん、『大きな間違いをしでかしているのかもしれない・・・』と自分を責めたことも幾度となくあった。だが、ウィン・ガレージのオーディションで見せつけられた新田のタイムアタックは、その不安を吹き飛ばすほどセンセーショナルだった。
「気が早い話だとは思います。でも、少なくとも今は、新田さんに賭けてみて良かった・・・。」田村はそう言うと言葉に詰まった。
「龍、田村オーナーに応えられて良かったな。」微笑みながら、柿崎が静かに言った。
「田村さんが、全てドアを開けてくれました。」新田が答えた。
 田村が居なければ、絶対に今の自分はここには居ない。新田は自信を持ってそう言えた。
 自分では絶対に気付けなかった可能性を、田村が一つずつ見つけ出して導いてくれた。
「ようやくお前らしい眼つきに戻ったな。」柿崎が嬉しそうに言った。
「龍。今お前の腹の中で思っている通りに突っ走ってみろ。」
 新田は柿崎の目を見て、
「全力で・・・走ってきます。」とだけ答えた。


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posted by 北乃 道晴 at 19:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 19.身辺整理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

19.身辺整理(8)


 本格的な渡英に備えて数日だけ自宅に戻った新田は、妻のみくから柿崎のメッセージを伝えられた。
「トコトンやってダメだったらまた会社に戻って来ていいって。お給料もスポンサー料も出せないからって・・・。」みくが言葉を詰まらせた。
「そうか・・・。でも、戻らない覚悟で行くよ。今の話も忘れる。」新田がみくを見つめて言った。
「うん。」辛うじてみくが一言だけ答えた。
 久しぶりに会った父親に甘えてはしゃぎ続けていた娘のあおいが、新田の膝の上で眠っていた。
「とにかく一日でも早く稼げるドライバーになる。オレが一番出遅れているんだからな。」新田の覚悟が決まった。
 1年を過ごすことなく、新田は単身で北海道を離れることになった。
「クリスマスくらい一緒に過ごせたら良かったね。」みくも寂しそうだったが、
「サンタに連絡だけはしておくよ。」と新田は笑って新千歳空港を飛び立った。
 新田自身、毎日娘の顔を見ることが出来たここ数ヶ月の生活には名残惜しいものがあった。経済産業省に在籍していた頃には考えられないほど、ゆったりとした充実した時間を楽しめた。
 一日、一日と、著しい成長を遂げるあおいの姿をもっとそばで見ていたい。
 この先1年、それも叶わなくなる。
『絶対にこの1年で結果を出してやる!』
 上空から北の大地を見下ろしながら、新田はあらためて決意を胸に刻み付けた。


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posted by 北乃 道晴 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 19.身辺整理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする




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